自己破産を考えたとき、「全ての財産を失うのではないか」と不安を抱く方も多いでしょう。確かに、破産手続きでは原則として財産が処分されますが、生活の立て直しに必要な最低限の財産については「自由財産」として保護されます。
さらに、病気や高齢、学費負担など特別な事情がある場合には、「自由財産の拡張」という制度を利用して、通常よりも多くの財産を残すことが可能です。
今回は、自由財産の拡張について、制度の概要から申立ての流れ、注意点まで詳しく解説します。
自由財産の拡張とは?
自己破産の手続きに入ると、原則として破産者の所有する財産は裁判所の管理下に置かれ、換価されたうえで債権者への配当に充てられます。しかし、生活を完全にゼロからやり直すには、最低限の現金や生活用品がなければ現実的ではありません。
そのため破産法では、破産後の生活再建を支えるために「自由財産」という仕組みを設けています。自由財産とは、破産手続きの中でも処分の対象とならない財産を指し、一般的には99万円以下の現金や生活に必要な家財道具、仕事に使う道具などです。
ただし、生活状況は人によって異なり、標準的な自由財産だけでは再出発が難しい場合もあります。そうした場合に検討されるのが「自由財産の拡張」です。この制度では、特別な事情があると裁判所が判断すれば、通常よりも多くの財産を自由財産として手元に残すことが可能になります。
自己破産しても手元に残せる財産を増やすための制度
自由財産の拡張とは、破産者の生活再建を目的として、標準的な自由財産の範囲を超えて財産を保護できる制度です。本来であれば処分・換価の対象となる財産であっても、生活に必要不可欠と判断された場合に限り、自由財産として扱うことが認められます。
裁判所は、破産者の申立てにより、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時における財産の状況その他の事情を考慮して、標準的な自由財産以外の財産を自由財産とすることができる
この制度により、通常なら破産財団に属する財産であっても、例外的に破産者が自由に処分・使用できるのです。
自由財産の拡張が認められやすいケースは?
自由財産の拡張が認められるかどうかは、破産者の事情に大きく左右されます。例えば、高齢で再就職が難しい場合や、破産者本人や家族が病気や障害を抱えている場合には、生活維持のために財産の保護が必要と判断されやすいです。
ほかにも、生活費をまかなう年金の受取口座にある預貯金や、子どもの学費支払いのための資金など、用途が明確で不可欠な財産は、拡張の対象となる可能性が高まります。病気による入院や手術を控え、保険を維持する必要があるときも、特別な事情として考慮されることがあるでしょう。
自由財産の拡張の対象となる財産の種類
自由財産の拡張の対象となる財産には、20万円以上の預貯金、通勤・通院用の自動車、自営業の仕事道具、高額医療機器、学資保険の返戻金、生命保険の解約返戻金などが含まれます。
預貯金については、具体的な使い道があることを説明し、学費の請求書や医療機関の見積書などの証明できる資料を添えると有利です。
通勤や通院のための自動車も、交通手段が限られている地域で生活している場合には認められやすくなります。ただし、高級車ではなく実用的な価格帯の車であることが前提です。
保険については、再契約が難しい健康状態である場合、継続の必要性が認められることがあります。
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自由財産の拡張の申立ての流れ
自由財産の拡張を希望する場合、適切に申立てを行う必要があります。
破産手続きの中で自由財産の拡張を認めてもらうためには、具体的にどのような手続きが必要なのか、また申立てに際して気をつけるべきポイントは何かを知ることが大切です。
自由財産の拡張は自動的に認められるものではないため、裁判所に対して具体的かつ丁寧な説明を行うことが求められます。
申立ての期限と必要書類
自由財産の拡張を求める場合は、破産手続開始決定の確定日から1ヶ月以内に書面での申立てが必要です。
申立書には、拡張を希望する財産の種類や金額、そしてなぜ必要なのかという理由を具体的に記載します。その際、治療にかかる費用の内訳や、子どもの教育費の明細、保険契約書などの資料を添えると説得力につながり、裁判所の理解を得やすくなるでしょう。
破産管財人からの意見も参考にされる
申立てが行われると、裁判所は破産者の財産状況や生活状況を総合的に考慮して判断を下します。破産管財人が選任されている場合は、その意見も参考にされます。
通常、裁判所による判断は書面での審査です。しかし、必要に応じて破産者本人や管財人が呼ばれる審尋(しんじん)が開かれることもあります。審尋が行われる場合、裁判官からの質問に備えて、事前に事情を整理し、説明できるようにしておくと安心です。
自由財産拡張の判断基準とは
裁判所が自由財産の拡張を認めるかどうかは、「その財産が破産後の生活にとって不可欠であるか」が主な判断材料です。
破産者の生活状況、財産の内容、収入の有無や見込み、家族構成、健康状態などを総合的に検討し、「拡張しなければ生活再建が困難」と判断される場合に限り、例外的に認められます。
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自由財産の拡張の注意点
自由財産の拡張申立てにあたっては、いくつか重要な注意点があります。
万が一、虚偽の申告や不正な財産隠しと判断されれば、免責不許可事由となり、破産手続き自体が頓挫する恐れも否定できません。制度を活用するうえで、誠実な申告と申立て内容の正確さが欠かせない前提です。
財産目録に記載していない財産は拡張対象にならない
破産申立ての際には、財産目録に記載されている必要があります。記載がなかった財産について、後から申立てを行っても原則として認められません。
場合によっては不正と見なされ、手続き全体に悪影響を及ぼす恐れがあるでしょう。
自由財産拡張の金額制限
自由財産の拡張には「99万円基準」と呼ばれる金額の目安があります。自由財産の総額が99万円以下であれば、比較的柔軟に認められやすいものの、99万円を超える場合は、より厳格な判断が下されます。
趣味のコレクションや高額な宝飾品など、生活再建に直接関係しない財産については、たとえ99万円以内でも認められる可能性は低いです。拡張を求める財産がどのように生活の安定に必要なのか、理由を上申書などで明確にすることが重要です。
同時廃止事件では自由財産拡張は問題にならない
自由財産の拡張が問題となるのは、破産手続きのなかでも「管財事件」となった場合に限られます。一方、財産がごくわずかで配当の必要がない「同時廃止事件」では、そもそも拡張を検討する必要がありません。
同時廃止事件の場合は、破産管財人が選任されず、手続きも比較的簡素に進むため、拡張を申請する場面自体が発生しにくくなります。
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自由財産の拡張が認められなかった場合の対処法
自由財産の拡張が認められなかった場合でも、諦める必要はありません。決定に不服がある場合、「即時抗告」という方法で異議を申し立てることも可能です。
ただし、初回と同じ内容では再却下される可能性が高いため、新たな事情や証拠を追加して主張を補強する必要があります。
破産財団への組入れによる対応
保険契約に関しては、解約返戻金相当額を現金で破産財団に組み入れることで、保険契約を解約せず継続できる可能性があります。
退職金についても、一定額を財団に組み入れたうえで、残額については自由財産の拡張が認められる場合があるでしょう。
破産管財人による財産の放棄
現金化が難しく、管理コストのかかる財産については、破産管財人が放棄することもあります。例えば、長期間売却されず税金や維持費だけがかかる地方の山林などは、管理負担の観点から放棄され、破産者の手元に残る可能性があります。
司法書士への相談と適切な対応
自由財産の拡張は、申立てのタイミングや記載内容、添付資料の準備など、専門的な知識が必要な場面が多いです。できるだけ手元に財産を残し、自己破産後の生活を安定させたいと考えるのであれば、債務整理に詳しい司法書士に相談することをおすすめします。
相談の際には、現在の収入や支出、家族の状況、保有する財産の詳細などを事前に整理しておくと、より的確なアドバイスを受けられます。
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まとめ
自由財産の拡張制度は、自己破産後の生活を立て直すための重要な制度です。特別な事情がある場合には、通常より多くの財産を残せ、再出発の支えとなる可能性があります。
ただし、申立ては破産手続開始決定から1ヶ月以内に行う必要があり、財産の必要性を示す根拠資料も求められます。内容が曖昧だったり、財産を正確に申告していなかったりすると、拡張が認められないどころか手続きそのものに影響を及ぼしかねません。
ライタス綜合事務所では、自由財産の拡張に関する相談も随時受け付けています。申立てに不安がある場合は一人で悩まず、ぜひ当事務所のご相談予約をお取りください。
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当事務所は任意整理・個人再生・自己破産に対応しています(司法書士業務の範囲内に限る)。どの手続きが良いか分からない場合、ご依頼者様の状況を見てご提案しますのでご安心ください。
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